大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)93号 判決 1988年7月07日

大阪府堺市浜寺昭和町二丁二八四番

上告人

粟井綾子

同堺市浜寺昭和町一丁一六〇番一号

上告人

粟井文隆

同堺市中百舌鳥町一丁八五番五号

上告人

本多忠信

右三名訴訟代理人弁護士

小林則夫

中村文隆

大阪府堺市南瓦町二番二〇号

被上告人

堺税務署長

中川光男

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六一年(行コ)第四五号贈与税等賦課決定処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年六月一六日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人小林則夫の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巌)

(昭和六二年(行ツ)第九三号 上告人 粟井綾子 外二名)

上告代理人小林則夫の上告理由

上告人は民事訴訟法第三九五条一項六号の上告理由に基づき、下のとおり上告するものである。

一 《控訴審判決理由に対する反論》

1 控訴審は、「控訴人らは類似業種比準方式、配当還元方式、純資産価額方式の三方式を定める評価通達は、一物三価を認めるものであつて、評価の合理性を欠くと主張する。しかして、・・・」と判示しているが、これに対する上告人らの反論は左に述べるとおりである。

(1)「評価の合理性を欠くと主張する。」とあるが、上告人らは、非上場株式に関する評価通達が合理性を欠くというような主張をした覚えはない。

そればかりか、むしろ積極的に合理性を認める主張をしているのである。

具体的にその主張部分を列挙してみると、次のとおりである。

<1>「非上場会社に関する評価通達は、納税義務者(株式を取得した者)の企業支配力の強弱と評価会社の規模の大小によつて、それぞれ評価の方式を別異に定めており、極めて合理的な内容であると認められる・・・・・・」(原告らの第二準備書面の七)

<2>「被告は、本件贈与税の課税処分につき、時価算定の合理性のみに着目し(原告らは、取引相場のない株式に関する評価通達が不合理なものであると主張しているのではない。

この点については、原告ら第二準備書面の七においても「極めて合理的な内容であると認められる」と述べたとおりである。もつとも、本件贈与税の課税処分は、より一層合理的な内容へと改善された昭和五八年四月八日付直評5、直資2-九六「相続税財産評価」に関する基本通達の一部改正について」、通達による改正前の評価通達に基づいて、株価の算定が行われていることからすれば、この「極めて」の表現はいささか過度の賛美であつたと思われる》、・・・・」(原告らの第三準備書面三の(1)の最後段)このことから明らかなように、控訴審は、上告人らの主張を誤解したものというべきである。

(2)右(1)で述べたとおり、控訴審は、あたかも上告人らが非上場株式に関する評価通達の不合理性を主張しているかのように事実を誤解したうえで、「しかして・・・・」以下で評価通達の合理性を縷々説示し、あたかもこれが本件事件の争点であるかのように解しているようである。

しかしながら、控訴審がいかに原則的評価方式と配当還元方式に合理性があることの証明に成功したところで、これらが相続税法所定の「時価」であるということの証明にはならないのである。このことは、例えば評価通達が原則的評価方式と配当還元方式という二種類の評価方式を定めているのと同様に、正常価格と限定価格という二種類の価格を定めている不動産鑑定評価基準を例にとれば容易に理解ができるのである。

すなわち、正常価格とは「正常性を有する不動産について、合理的な自由市場で形成されるのであろう市場価値を表示する適正な価格」であり、この価格はもとより合理的な価格なのである。

他方、限定価格は、「不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割に基づき、不動産の価値が市場価値を乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく経済価値を表示する適正な価格」であり、この価格もまた限定市場における適正な取引価格を表示する合理的な価格なのである。(限定価格が合理的な価格であることは、後述する財団法人大蔵財務協会刊角晨一郎監修所得税法基本通達逐条解説四六一頁以下の所得税基本通達58-12の《解説》においても承認されている。)

しかしながら、正常価格と限定価格のいずれもが合理的な価格であつても、「時価」とは正常価格のみを指すものであつて、限定価格が「時価」でないことは明白である。

このことからも分かるように、控訴審が原則的評価方式と配当還元方式の両方式の合理性をいかに力説し、これを証明したところで、その両方式による価額のいずれもが時価であるという結論には到底到達することができないことも又明白な事実なのである。この点は、一物一価の法則(同一の公開市場において、同一の商品に二つの価格は同時には存在しないという法則。)という経済学の大法則を無視し、非上場株式に関する評価通達に合理性がある旨の主張に終始している被上告人についても同じことがいえるのであつて(被控訴人の第一準備書面の一参照。)、控訴審も被上告人も本件事件の争点が何であるかということすら把握ができていないといえるのである。

要するに、控訴審も被上告人も、原則的評価方式(本件の場合は、類似業種比準価額方式。)によつて算定した価額が相続税法にいう「時価」であるというためには、次のような科学的な論拠をもつてする検証が必要であるということの認識を欠如しているのである。

イ 第一は、法解釈学の立場からの検証であり、類似業種比準価額方式が相続税法所定の「時価」の定義に合致する評価方式であるかどうかという、いわば形式的な観点からの検証である。

この観点からする検証の問題点は、控訴審における上告人ら(控訴人ら)の準備書面の四の1でも詳述したところであるが、非上場会社の同族株主という極めて限定された範囲の者についてのみ適用される類似業種比準価額方式が、なぜ「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額(時価の定義)」を算定するための方式といえるのか、という観点からする検証なのである。

ロ 第二は、評価理論の立場からの検証であり、(イ)評価方式及び(ロ)算定価額そのものが適正であるかどうかという、いわば実質的な観点からの検証である。

(イ)(評価方式が適正かどうかの検証)

この検証は、不動産鑑定評価基準の総論の第6(鑑定評価の方式)及び第7(鑑定評価の手順)にその指針が示されているのであるが、問題点のみを指摘するならば、類似業種比準価額方式は、評価会社と業種が類似する上場会社の株式の売買実例価額を、当該上場会社の評価会社に対する一株当たりの配当金額、収益金額及び総資産価額の各割合の平均値をもつて比準するものであり、評価方式の分類上は比較方式(取引事例比較法)に属する方式なのである。

この取引事例比較法は、不動産鑑定評価基準の総論第6の二の(一)の1(取引事例比較の意義)に定められているとおり「取引事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域において、対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合に有効である。」のだが、そもそも非上場株式と上場株式とでは、市場における流通性という面において決定的な差異があり、非上場株式には同一需給圏も類似の株式の取引も全く存在しないのである(しかも、粟井機鋼の株式は譲渡制限が付されている。)

しかるに、類似業種比準価額方式は、上場株式の取引価額を、非上場会社(評価会社)と同一需給圏内の類似の株式の取引とみなして比準する方式であつて、評価理論の立場からみても到底適正な評価方式であるとは認められないのである。

これに対して、配当還元方式は、不動産鑑定評価基準の総論第6の三の(一)の1(収益還元法の意義)に「収益還元法は、賃貸用不動産又は一般企業用の不動産の価格を求める場合にとくに有効である。」と定められているとおり、賃貸用不動産や一般企業用の不動産のように、市場における取引の目的地としてではなく、むしろ所有の継続を前提としてこれから生ずる収益に着目すべき財産の評価の場合に特に有効な方式なのである。

上告人らが、取引市場がもともと存在しない非上場株式の評価方式として配当(収益)還元方式が適正な評価方式であると主張する理由はここにあるのであつて、本件事件の審理に際しては、このような評価理論の立場からの評価方式そのものに対する一般的な検証が必要なのである。

(ロ)(算定価額が適正かどうかの検証)

この検証は、類似業種比準価額方式によつて算定した本件粟井機鋼の株式の評価額自体が適正かどうかという、右(イ)の一般的検証に対し、評価理論の立場からする個別具体的な検証である。

このような検証が必要なことは、評価通達自体が、6の(この通達の定めにより難い場合の評価)の項で、「この通達の定めによつて評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めていることからしても明らかなのである。

この検証の要点については、上告人らが控訴審における準備書面の二の1で、本件粟井機鋼の株式の年平均普通配当率をもつて主張しているので、この部分を参照していただきたい。

(3) 控訴審は、上告人らが主張している一物一価の「三価」とは「類似業種比準方式、配当還元方式、純資産価額方法の三方式」によつて算定した各価額を指すものとしてとらえているが、甚だしい誤解というべきである。

このような誤解は、非上場株式に関する評価通達の解説入門書の序論の部分を一読さえすれば避け得たといいうる程の初歩的な誤解であつて、この事実は、控訴審が非上場株式に関する評価通達についての知識が全くないままに本件の審理を行つたものであることを如実に物語るものである。

2 控訴審は、「・・・・原判決・・・・九枚目裏一二行目「多大の労力」を「複雑な計算」と・・・・・訂正する。」と判示しているが、「複雑な計算」と訂正することにどのような意味があるというのであろうか。

類似業種比準価額方式は、同方式による評価のみで確定金額が算出されるのに対し、配当還元方式は、同方式と類似業種比準価額方式の二方式によつて評価をしなければ確定金額を算出することはできないのである。

このことは、上告人らが控訴審における準備書面の二の2の最後段で指摘したところであり、従つてこのような訂正をしたところで『配当還元方式は類似業種比準価額方式よりも「多大の労力を要」する方式なのである』という事実が『配当還元方式は類似業種比準価額方式よりも「複雑な計算を要」する方式なのである』と言い換えられるだけのことであり、原審の決定的な認識不足又は原審の判決理由の齟齬は全く改められることはないのである。

3 消去法によつて、控訴審判決理由から右1及び2で述べた部分を消去していくと、残されるのは「当裁判所も控訴人らの請求はいずれにしても理由がないと判断するが、その理由は・・・・原判決説示と同じであるから、これを引用する。」という部分のみである。

上告人らが、原審の判決理由に対して、あれだけ多くの反論をしているにもかかわらず、控訴審がこれらの反論に対応する判決理由を示しているのはたつたこれだけの部分なのである。

もつとも、控訴審が高度な識見と豊富な知識に基づき、慎重な審理を尽くしたうえでこのような判決理由を示したのであれば、たつたこれだけの判決理由であつても立派な判決理由が示されたというべきなのであろうが、控訴審の識見と知識の程度は、右1及び2で指摘したとおり、上告人らの主張を歪曲し、争点の整理もできておらず、さらには評価通達に関する基礎的な知識すら欠けている状況なのである。

以上述べたように、控訴審の裁判は不当であり、結局その理由に齟齬あるか、理由不備の違法あるものとして破棄されるべきである。

二 《被上告人の主張(被控訴人第一準備書面)に対する反論》

被上告人の主張(被控訴人第一準備書面)については、上告人らに反論の機会が与えられなかったので、これに対して次のとおり反論をする。

1 被上告人(被控訴人)は、『・・・原判決が理由とするとおり「同一会社の従業員と同族株主という限定された当事者間の合意に基づく価額は不特定多数の当事者間での自由な取引とはいい難い」(原判決一〇枚目裏)のは明らかであり・・・・』と反論しているが、この反論は、ただ原判決の理由をそのまま引用しているに過ぎないものである。

被上告人のこの主張は、例えば「限定された当事者」が国土庁又は都道府県知事によつて公表される公示価格若しくは地価調査価格で土地の売買をしたとしても「限定された当事者の合意に基づく価額」であるため「正常な取引による適正な価額」ではなく、結局、限定された当事者間では一切「適正な価額」による取引は成立し得ないという、全く不当な主張なのである。

財団法人大蔵財務協会刊 角晨一郎監修所得税基本通達逐条解説四六一頁以下の所得税基本通達58-12の《解説》には、正常価格にほど遠い限定価格であつても「税務上は正常な取引として是認されるべきものであろう。」と、また、昭和五四年八月七日付国税庁直税部審理課及び資産税課共同情報資産税関係質疑応答事例集第六集一六三頁《永代無償使用している土地の譲受け》の事例(注参照。)の回答要旨では「その価格は、適正な時価であり、その売買は、正常な取引であるというべきである。」と、被上告人の主張とはまつたく反対の内容の説明がされているのである。

(注)不動産鑑定評価基準が総論第4の三の(二)の1(限定価格)の項で「(イ)借地権と底地との併合を目的とする売買に関連する場合」と限定価格を求めることができる場合の例示をしているとおり、この事例は、地主とその土地の(借地権に相当する権利があるものと認められる)永代無償使用者という限定された当事者間の合意に基づく売買の事例なのである。

2 (1)被上告人(被控訴人)は、『また、本件株式取引については「証券会社による評価が価額決定の参考とされていない」(同)のであるから、右譲受価額は、到底自由な立場に立つ売買当事者の合意に基づく適正な価額とはいえない』と主張する。

この点についても、上告人らは、原審における原告らの第四準備書面の一の4の(2)及び控訴審における控訴人らの準備書面の三の2においてそれぞれ反論を行つているが、被上告人はこの反論に対しては何ら応えることはなく、ただただ右の主張をくり返すばかりである。

被上告人が、このような主張のくり返しを行うのならば、まず、第一に、被上告人の主張する「本件株式取引」とは、一体どの時点の取引を意味し、また、この取引について「参考とされていない」「証券会社による評価」とは、どの価格時点の株式評価書を指すのかを具体的に明らかにする必要があるのである。

何となれば、財産の評価をするに際しての基本的事項の一は、評価の時点なのである。

財産の価額は日々変化するのであり、それ故に相続税法第22条は「当該財産の取得の時における時価により・・・・・」と、また、時価の定義は「課税時期において・・・・」と規定又は定義付けがされているのである。このことは、不動産鑑定評価基準の総論第4(鑑定評価の基本的事項)の二(価格時点の確定)の項においても「価格形成要因は、一時の経過により変動するものであるから、不動産の価格は、その決定の基準となつた日においてのみ妥当するものである。

したがつて、不動産の鑑定評価にあたつては、不動産の価格の決定の基準とすべき日を確定する必要があり、この日を価格時点という。」と定められているとおりであつて、上告人らが本件粟井機鋼の株式を譲受けた時点と証券会社による株式評価書の価格時点とは異なるのであるから、これらが取引に際して「価格決定の参考とされていない」のはむしろ当然のことというべきなのである。しかるに、被上告人らがこの主張をくり返すのであるならば、前述のとおり「本件株式取引」と「証券会社による評価」とがそれぞれいずれの価格時点のものを指すのかを明らかにし、そのうえで、価格時点の異なる「証券会社による評価」が何故参考とされるべきなのかについて説明を行うべきなのである。

(2) 第二に、被上告人は、前述のとおり一方で証券会社による評価が価額決定の参考とされていないから到底適正な価額とはいえない、との主張を行いながら、他方で「(もっとも、証券会社による評価価額を参考にすれば直ちに適正な価額といえるものではない。)」との主張を行つている。

この主張は、証券会社による評価を参考にしていてもしていなくても結局どちらであつても適正な価額とはいえない。といつた論理学のジレンマ論法に似たいかにも歯切れの悪い主張なのである。

この歯切れの悪さは、証券会社による評価を参考とする場合、これがどのような条件を満たしていれば「直ちに適正な価額」といいうるのかが明らかにされていないことが原因しているのである。従つて、被上告人は、これを明らかにしたうえで、右(1)の主張に対する釈明として次回提出の準備書面にて価格時点が特定されるであろう「証券会社による評価」がいかなる理由でこの条件を充足しているのかについて、殊に、被上告人が評価してその正当性を主張している本件粟井機鋼の株式の評価方式又は評価額との閑散性(要は、どちらがどの点において優れているのかということ)を中心に説明をすべきなのである。

(3) 第三に、上告人らは、原審における原告らの第四準備書面の一の4の(2)及び控訴審における控訴人らの準備書面の三の2において、株式評価書の存在を知つたのは本件贈与税の課税処分があつた日以降のことであると主張しているにもかかわらず、これが「参考とされていない」旨の主張をくり返している。

被上告人は、上告人らがこの株式評価書の存在を本件株式取引の際に知つていたとでもいうのであろうか。もしそうであるならば、その証拠となる事実を明らかにすべきであるし、これに対し、存在を知らないという上告人らの主張事実を認めるのであるならば、何故知らずにいる者がこの株式評価書を参考とすることができるのかについて説明を加えるべきなのである。

(4) 第四に、右(3)の知らずにいる者が参考とすることができるか、ということとの関連で附言しておくが、被上告人は、評価通達によつて評価した価額が「時価」であり、「譲渡の対価の額と時価との差額がある場合については、租税負担の公平の見地からすべてみなし贈与課税の対象とすべきなのである。(昭和60年7月12日付被告第二準備書面の三の1)」と主張する。

この主張は、株式の売買当事者がこの価額を参考として取引価額を決定しなければみなし贈与課税の対象とするものであり、従つて、評価通達は、すべての取引に通用する絶対不変の価値を算定するための基準となるものである、ということを意味するのである。

しかしながら、類似業種比準価額方式によつて株式の評価を行うためには、評価会社と業種が類似する上場会社の各月ごとの株価A、一株当たりの配当金額B、年利益金額C及び総純資産価額Dの各数値の把握が必要となるところ(評価通達一八〇参照。)納税者がこれらの数値を把握するには取引の日の数ケ月後に国税庁から発表される資料を待つ他ないのである。

しかもこれらの各数値の算出の基礎となる上場会社名が公表されることはないのであるから、納税者は、株式の取引に際して当該株式の評価額が概算でいくら位になるかの判定さえもできないのが現実の姿なのである。

要するに、被上告人の主張は、株式の取引当時においては概算額の算定すら到底不可能な相続税評価額を「時価」だといい、これを参考としなければ贈与を課すという全く理不尽な主張をしているのである。(もし、被上告人が理不尽な主張でないというならば、被上告人が次回準備書面を提出するに際し、その提出の日の前日の粟井機鋼の株式評価の基礎となるべきAないしDの各数値を証拠書類をもつて示し、この日の取引価額として取引当事者が参考とすべき「時価」がいくらであるかを明らかにされたい。)

3 被上告人は「また控訴人らは、相続税法七条の時価と同法二二条の時価とは、その意義を異にすると主張するが・・・・・被控訴人の原審における昭和六一年七月三一日付け準備書面の五で主張したとおり、同法七条の時価も同法二二条の時価もその意義は異ならないと解すべきである。」と主張する。

しかしながら、この「第四準備書面の五」で主張されている内容は、相続税法二二条ないし二六条の二の各規定の相互関連性、すなわち、評価方法が法定されている財産(法定評価財産)とそれ以外の法解釈に委ねられている財産との区分(いわば財産の種類によつて適用される法文の差異)の説明に終始するのみであつて、上告人らが主張している相続税法七条と同法二二条の相互関連性(いわば有償取引と無償取引という取引形態によつて適用される法文の差異)に対しては全く反論がされていないのである。

被上告人が反論すべきは、上告人らが(控訴審における準備書面の三の3でも述べたとおり)原審における第四準備書面の三の1で主張した部分であるが、この部分で上告人らが引用し、証拠として提出した文献や解説書は、そのいずれもが国税庁又は国税庁の責任ある役付職員の見解として述べられたものばかりなのである。

このうち、特に左の三つの文献又は解説書には、上告人らがこれまでに行つてきた主張を正当なものとして裏付ける見解が如実に述べられているのである。

(いずれも甲号証として原審に提出済み。)

被上告人は、原審における被告第四準備書面の後の一で「右主張は、原告ら独自の主張というべきであり、失当である。」と主張しているが、このような証拠によつて裏付けられた主張が、何故独自の見解なのであろうか。

上告人らは、被上告人の次回準備書面において、必ずこれらの証拠において述べられている見解について釈明がされることを期待する次第である。

<1>財団法人大蔵財務協会刊 角晨一郎監修所得税法基本通達逐条解説四六一頁以下の所得税基本通達58-12の《解説》(注)この解説書の監修者及び共著者は、全員が国税庁の要職にある者である。

<2>国税庁の税務大学校の昭和四七年度「税大研究科論文集第六分冊」四〇頁《法第七条の時価の意義》

<3>昭和五四年八月七日付国税庁直税部審理課及び資産税課共同情報資産税関係質疑応答事例集第六集一六三頁《永代無償使用している土地の譲受け》

4 上告人らは、右一の1の(2)及び二において、被上告人の控訴審における主張に対して悉く反論をしたが、これらの反論は、むしろ被上告人に対する求釈明である。

もし、被上告人が、次回準備書面においてこれに対する釈明(又は反論)ができないようであれば、被上告人の控訴審における主張がいかにとりとめのないものであつたかが明らかになるとともに、結局、被上告人は、上告人らの控訴審における主張に対しては、述べるべき意見を全く有していないということにもなるのである。

なお、右二つの標題を《被上告人の主張(被控訴人第一準備書面)に対する反論》としたが、これは同時に、原審判決理由及びこれをそのまま支持した控訴審判理由に対する反論でもあるのである。

従つて、控訴諸においては、以上の諸点についても結局理由不備の違法があるものであつて、破棄を免れないものである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例